< ご 挨 拶 >

日本琵琶楽協会会長就任あいさつ

 

本日開催されました理事会および第64回定期総会の議決によって、会長に就任いたしました。伝統ある日本琵琶楽協会の重責を担うこととなり身の引き締まる思いでございます。

日本琵琶楽協会は昭和34年の創立以来、64年の歳月を経過いたしました。戦後、圧倒的なアメリカ文化の流入の中にあって、よき琵琶楽の伝統を絶やすことなく、後世に伝えていこうという先人たちの強い意志が一つになってスタートいたしました。以来、田辺尚雄先生、吉川英史先生、金田一春彦先生、山岡知博先生、山下晴楓先生という歴代会長のご指導の下、琵琶楽の伝承・普及活動を続けてまいりました。

薩摩琵琶、筑前琵琶、錦心流琵琶、錦琵琶、鶴田流琵琶という数ある流派を超えて、その指導者、演奏家が寄り集まって協会を組織し、後継者を育て、琵琶楽の伝統を伝えていこうという共通の目標をもって活動してまいりました。その間、毎年継続して開催している「琵琶楽コンクール」は昨年、その58回目を開催し、数多くの優秀な演奏家を輩出してまいりました。また協会主催による各流合同の新春、夏季、秋季年3回の「演奏会」は盛況を極めるようになってまいりました。これもひとえに、会員各位のたゆまぬ努力と熱意の賜と心から感謝申し上げます。

さて、高度情報化社会が進み、またこの3年間はコロナの追い打ちもあって、人との接触が希薄となる中、琵琶楽の演奏会のあり方や伝承の活動等大変難しい局面を迎えております。一方、グローバルリズム、価値の多様性の進行に伴い、ややもすれば利便性や収益性に心を奪われがちな時代背景の中にあって、伝統に裏付けされた文化、芸術から得られる心の充実を図ることがもっとも大切にされるべきことといってよいでしょう。

64年前、当協会設立の中心的な役割りを果たされた初代理事長辻靖剛先生は、生涯ひたすらに琵琶の弾奏に打ち込まれましたが、武満徹対談集「ひとつの音に世界を聴く」の本の中で、「ほんとうにいい琵琶は滅びることはない。伝統ある古曲琵琶で精神をよい方向に引っ張っていこうという意気に燃えている」という言葉を残されています。人々の心や行動がメディアやSNSなど手近な情報に頼り、流されることが多く見られる今だからこそ、じっくり考える土台となる正しい知識や教養とともに、豊かな情操・情緒を涵養することがきわめて大切であり、そのためにも、琵琶楽の果たす役割は大きいものがあります。辻先生をはじめ先人の力によって受け継がれてきた伝統ある琵琶楽をさらに魅力あるものとして普及を図っていくにはどうしたらよいか会員の皆様とともに考えながら積極的な活動を展開してまいりたいと思いますので何卒よろしくお願い申し上げご挨拶といたします。

(令和5年1月15日)

 

日本琵琶楽協会 会長 須田誠舟